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uta 2026/10/13 公開 2026/10/13 18:05 更新
「霧が晴れ次第、ミレーヌ嬢との婚約は破棄する。神がそう示されるはずだ」
晴れ祭の前夜。王太子と聖女が告げたのは、湖の女神の託宣による婚約破棄――そして「霧が晴れるのを、少しだけ待って」という、ひどく人間くさいお願いでした。
わたしは霧番のリーネ。前世は日本の山上気象観測所で、誰にも読まれない月報を十二年綴じ続けた人間です。この国には『神託』はあっても『観測』がない。だから、わたしは測ることにしました。毎朝夜明け前に起きて、何も起きないことを確認して帳面に書く。そんな十二年ぶんの記録が、観測小屋の棚を埋めています。
「暇な役人の落書きだ」と王太子は笑いました。はい、十二年ぶんの落書きです。
でも――霧が晴れる時刻は、測れます。
目の見えない公爵令嬢ミレーヌ様は、わたしの唯一の友人。十八年、同じ椅子に迷わず座る人。彼女のために、わたしにできることは一つだけ。神の御業に口を出すのではなく、ただ、事実を申し上げること。
晴れ祭の朝、湖畔に霧が立ちます。女神は何も仰いません。けれど帳面は、十二年ぶん、ちゃんと語ります。
声を荒らげない。呪わない。ただ測って、記録して、淡々と事実を置くだけ。静かな断罪と、やさしい朝のお話です。
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