異世界恋愛 短編

月蝕の晩鐘、十二回目で婚約破棄されましたが――鐘を突くのは私の仕事なので、やめません ~前世は時報係の公務員でした~

uta 2026/10/13 公開 2026/10/13 18:05 更新

あらすじ

「セリア・ヴァント。貴様との婚約を破棄する」

月蝕の晩、大聖堂前広場。王太子から突きつけられた言葉に、鐘守の娘セリアが返したのは――。

「かしこまりました。では、本日の第十九打の時刻を確認してもよろしいですか」
「……は?」
「あと四十秒です」

年に一度、赤く欠ける月の夜。魔物除けの結界が緩むこの国を守るのは、聖女の祈り――ではなく、大聖堂の〈晩鐘〉の「打刻間隔」である。月の欠け率に応じ、秒単位で補正された四十三打。それを知るのは、鐘楼に住む地味な事務方、ただ一人だけ。

セリアは三百七十二ページの引き継ぎ書を差し出した。だが王太子も新しい聖女も、それを受け取らない。「鐘など誰が突いても同じだ」――ならば、どうぞご自由に。

誰も褒めない。誰も気づかない。止まったときだけ、怒られる。

――ええ、慣れております。だって前世は、夕焼けチャイムを守り続けた自治体の時報係でしたから。

婚約は破棄された。けれど鐘を突くのは私の仕事なので、やめません。

点検簿と手順書と、誤差〇・三秒の矜持。地味な公務員令嬢が、記録と手順で国を救う(ついでに見る目のない人たちが青ざめる)お仕事ざまぁファンタジー、開幕。

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