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あぐり りょう 2026/09/26 公開 2026/09/26 14:09 更新
東京で派遣社員として働く、一人の女。
仕事では名前を呼ばれず、
愛していると言った男は、別の女性と結婚する。
断れない。
怒れない。
それでも毎朝、同じ時間に起きて、
「大丈夫」と言い聞かせるように一日を始める。
そんな彼女には、もう一つの顔があった。
週末、箱根で芸妓「ユリ」として働くこと。
ある夜。
次の座敷へ向かうため、いつもの赤い橋を渡ったはずだった。
けれど――。
道が、少しだけ違う。
杉の木々は深くなり、
誰もいないはずの森で、
古びたぬいぐるみが彼女に語りかける。
「もう、我慢して持たなくていい」
そして現れたのは、
見たこともないほど整った顔立ちの男。
「どこへ行くの?」
その手から逃げるように、
彼女は元の世界へ戻る。
ただの白昼夢。
そう思ったはずだった。
けれど、それから少しずつ、
彼女の世界は噛み合わなくなっていく。
やがて彼女は、良縁の御守りを返すため、
故郷・京都へ向かう。
誰かに決められてばかりだった人生で、
初めて自分の意思で何かを手放した、その先。
霧の中に、
一本の橋が現れる。
――振り返ってはいけない。
それでも、彼女は振り返る。
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