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夜更かし堂 2026/10/05 公開 2026/10/13 21:10 更新
壊れていないものに、壊れた姿が重なって見える。
何もない場所に、存在しない破片や傷が残っている。
河口都市セルネアで父とともに、魔法道具に使う触媒材を加工する十五歳の職人エルドには、昔からときどき、そんな「そこにないもの」が見えていた。
見えた通りのことが起きることもあれば、何も起きないまま消えることもある。その正体も、見える条件も分からない。
ある日、工房で見えた壊れた姿の通りに留め具が折れる。そこから続く異変を追ううち、エルドは古い鉱山の事故へ関わることになる。
痕跡が見えても、何が起きるのかも、どう防げばいいのかも分かるわけではない。それでも、危険に気づいていたのに何もしないまま終わるのは嫌だった。
工房で培った技術を磨き、剣や魔法を身につけ、知らない土地ではその土地を知る者に聞く。エルドは少しずつ、見えた痕跡を判断と行動の材料に変えていく。
やがてセルネアを離れれば、土地が変わり、常識も、魔法の使われ方も、危険の形も変わっていく。知ることが増えれば、痕跡から拾えるものも、見えたあとに選べる手段も増えていく。
けれど、分かることが増えるほど、ひとつの疑問だけが残る。
――自分が見ているものは、本当に「これから起きること」なのか。
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