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水平衡(すいへいこう) 2026/10/22 公開 2026/10/22 14:13 更新
1789年、ヴェルサイユ宮殿の金物工房。フランス国王ルイ16世はヤスリを手に、一枚の設計図に斜めの線を引いた。
その線はただ刃を鋭くするためのものだった。だが鉄床の上で刃が震えた瞬間、一つの声が国王の耳に囁き込んだ。
「もっと斜めに。斜めなら、綺麗に切れる」
ルイ16世は誰にも話さなかった。ただ設計図の隅に、錠前製作の公差を記す細い文字で、ほとんど見えない「良し」の一字を記した。
ここから、フランス一の権力者と、まだ名を持たぬ処刑機械の、誰も知らぬ縁が始まった。ギロチンは彼を「錠前職人」と呼び、彼はこの機械を「旧友」と呼んだ。機械は彼に知恵を授け、三部会の包囲をかわし、ヴァレンヌ逃亡の夜を凌がせ、王国の全てを部品に分解し、再び組み立て直そうと支え続けた。
だがそれはギロチンである。この機械ができることは、ただ「切り離す」ことだけだ。
民衆の力があらゆる巧みな計略を押し流す時、ギロチンは革命広場の中央に押し出された。最も慣れ親しんだ首の真上に、鋭い刃が吊るされる。灰白色の朝靄の中で三角の刃がきらりと光った。
機械は最後に、かすかな声を紡いだ。
「錠前職人、今回は……助けられない」
そして刃は落ちた。
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