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九葉(くずは) 2026/01/08 公開 2026/01/08 12:19 更新
「君は地味で華がない」
そう言われて婚約破棄された時、私が感じたのは絶望ではなく解放感だった。
王太子オスカーの完璧な補佐役として、書類の山と格闘し続けた十年間。
やっと自由になれる。
私は迷わず異動願を出し、王宮の掃き溜めと呼ばれる裏厨房へ向かった。
そこは食材が乱雑に放置され、悪臭が漂う無法地帯。
けれど私には、誰にも言っていない秘密があった。
私の魔法は、時間を巻き戻すほど強力ではないけれど、野菜の鮮度だけは完璧に守れるのだ。
誰も見向きもしないしなびた野菜や、硬くなったパン。
それらを丁寧に蘇らせ、温かいスープに変えることが、私のささやかな幸せだった。
ある深夜、厨房にふらりと現れたのは、過労で幽霊のようにやつれた宰相ディルク。
国一番の切れ者と恐れられる彼が、私の作った残り物のポトフを食べて涙を流すなんて。
「生き返った」
その一言から、私の静かな隠居生活は終わりを告げる。
毎晩のように訪れる宰相、匂いにつられて集まる騎士団、そして激務に倒れそうな文官たち。
私の料理はいつしか、王宮の裏側で働く人々の最後の砦となっていく。
一方で、私を追放した王太子たちは気づいていなかった。
華やかな晩餐会よりも、茶色いお弁当の方が、人の心を動かす力があることを。
胃袋を掴まれた男たちが、国を揺るがす反撃に出るとき、地味な令嬢の本当の価値が問われる。
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