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唯 2026/05/21 公開 2026/06/09 22:57 更新
雨の音が、古いアパートの窓を叩いていた。
六畳一間。
古いエアコンは、時々ガタガタと変な音を鳴らす。
壁紙も少し剥がれていた。
でも。
部屋の中には、シチューの匂いが広がっていた。
「……よし」
月城修は、小さく息を吐く。
鍋の中では、安売りの野菜が煮えている。
見切り品の肉。
少し形の悪いにんじん。
それでも、丁寧に作った。
修は料理が好きだった。
誰かに怒られないから。
ちゃんと“できる”と思えるから。
四十歳。
無職。
収入は障害年金。
少し発達障害もある。
うまく働けなかった。
人付き合いも苦手だった。
でも。
掃除して。
洗濯して。
静かに暮らしていた。
部屋の隅には、一本のほうき。
そして、ちりとり。
修は、それを手に取る。
「……来るなら来い」
ぶんっ。
「魔王軍め。この“聖なるほうき剣”が――」
ピシャアアアアアッ!!
突然。
窓の外が、昼みたいに白く光った。
「っ!?」
雷じゃない。
光が。
空から落ちてきた。
修は思わずベランダを見る。
雨の中。
そこに、“穴”が開いていた。
青白い光が渦を巻いている。
「……は?」
心臓が嫌な音を立てる。
夢かと思った。
でも。
次の瞬間。
その光の中から、人が落ちてきた。
「きゃあああっ!?」
「うわあああっ!?」
ドサッ!!
ベランダに、少女が倒れ込む。
銀色の長い髪。
びしょ濡れのドレス。
透き通る青い瞳。
まるで物語から飛び出してきたみたいだった。
でも。
「いたたた……」
普通に痛がっていた。
修は呆然とする。
少女も、呆然としていた。
雨の音だけが響く。
数秒後。
少女が、おそるおそる口を開いた。
「……ここは」
きょろきょろと辺りを見る。
古いアパート。
洗濯物。
室外機。
安っぽいサンダル。
少女は、真剣な顔で言った。
「……地下牢、ですか?」
「違う」
反射で答えていた。
少女は、ほっとした顔になる。
「よかった……」
「いや、よくないよ!?」
修は慌てる。
「え、なに!?誰!?警察!?いや違うな!?え!?」
少女は、びくっと肩を震わせた。
「あっ……す、すみません……」
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