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火とかげ 2026/03/22 公開 2026/04/16 20:09 更新
王の継承者は、必ず手にコインを握って生を享ける。
その色が王国の未来を映すと、人々は信じていた。
魔法とは、叶わなかった願いを世界の底から掬いとる力。
その代償として、行使した者の未来が削り取られる。
コインの祝福と魔法の呪い。
そのふたつを抱えた王国アノジェアには、力の暴走を封じるための秘匿された学術機関があった。
禁学の塔。
通常の学問が新たな可能性を探り、光を目指すものだとすれば、そこにあるのは、過剰な可能性を封じ、世界を安定に導くための密やかな夜の思索
――不可能証明。
リウレン・ルゼリアは禁学の塔の若き学者。
かつて師が完成させた不可能証明の余波で、最も大切な友を失った。
消えゆく友が最後に残した言葉を信じ、彼はこの世界からひとつの可能性を永遠に封じようとしている。
もう二度と、誰の存在も否定させないために。
ゼル・イルナフ。
リウレンの傍らで笑い、語り、子どもたちに慕われた赤毛の男。
だが彼もまた、魔法に奪われた者だった。
強大な魔法がその代償として奪うもの、それが「未来の可能性」であると彼が知ったとき、この世界の運命の歯車は、音もなく動き出した。
あるいは。
もっと前から動いていたのかもしれない。
偉大な王が神の狂気に力を貸すことを決めたときか。
緋銀という稀な色のコインを手に、新たな王が生まれたあの日か。
そのすべてを織り込んだ誰かの手が、はるか昔から歴史を繰り返し書き換えていたときから。
それでも――今度こそ、この世界から誰も消させはしない。
リウレンの証明が、この幾重にも折り重なった因果の螺旋にもたらすものは何か。
ゼルが手にした神秘の時計が最後に告げるのは、果たして誰のための時間か。
最も大切な友が消えたあの夜に胸へ灯した誓いの結末を、まだ誰も知らない。
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