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東曌 2026/10/12 公開 2026/10/12 22:31 更新
十四世紀、モロッコ。
広大なイスラーム世界を旅し、数えきれないほどの都市、王宮、砂漠、海を見てきた男がいた。
名は、イブン・バットゥータ。
タンジールに生まれたこの旅人は、長い年月をかけて世界を巡り、やがて自らの旅を語り始める。
その話を書き留めることになったのは、若き文人イブン・ジュザイイだった。
老人は語る。自分が見た世界を。出会った人々を。異国の王たちを。そして、誰もが驚くような旅の数々を。
だが、話を聞くうちに、ジュザイイは小さな違和感を覚え始める。
記憶違いでは説明できない矛盾。 食い違う年代。 どこか不自然な証言。 そして、語られたはずなのに、記録には残らない出来事。
老人は、嘘をついているのか。
それとも、長い年月の果てに、自分自身の記憶と物語の区別がつかなくなってしまったのか。
パンツ一丁の法官、モルディブの奇妙な日々、元朝の黄金要塞、消えた大都の謎、そして羊皮紙に刻まれた痕跡。
笑い話のように始まった旅の記録は、やがて歴史そのものを揺さぶる謎へと姿を変えていく。
旅をした者。 旅を語る者。 そして、その物語を後世へ残す者。
三者の思惑が交錯するとき、真実はどこにあるのか。
これは、一人の大旅行家の物語であると同時に、記録と記憶、虚構と真実の境界をめぐる歴史ミステリーである。
――大切なものは、記録されたことだけとは限らない。
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