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時雨オオカミ 2021/05/25 公開 2025/07/15 13:49 更新
「カナリア、君との婚約は破棄させてもらう」
「ねえ、お姉さま。嫁入り先を取り替えっこしませんか?」
家督を継ぐ長男と愛され子の妹に挟まれ、使用人のようにこき使われていた令嬢カナリア。彼女は両親の愛、婚約者全てを妹に奪われてしまった。
代わりに彼女が嫁ぐようにと押し付けられたのは、『人狼様』と呼ばれる神様のもとである。彼が治めているのは国最大のダンジョン……魔窟が存在し、あまりにも危険なため禁足地とされているレングラント山脈。
しかし、カナリアは知っている。かつて人狼様に嫁入りをした娘達は口々に「怖くて逃げ出してきた」と言って帰ってきていることを。
曰く、冷たく暗い人。
曰く、化け物のよう。
曰く、人間を憎んでいる。
悪い噂ばかりが行き交う『人狼様』の元へ一人で嫁入りさせられ、逃げ帰る場所もないカナリアは悲観する。
これではまるで、生贄のようじゃないか、と。
しかしいざ、人狼様のいる山脈までやってくると、迎えにきたのは銀色の毛並みと、赤い宝石のような美しい瞳を持った、馬ほどの大狼。食べられてしまうのかと思えば、大狼は彼女を背に乗せて屋敷まで駆けた。
屋敷に着く前に気絶した彼女は、気がついたそのときにはお屋敷の布団の中だった。そばには文机で眠っている銀髪の美青年。
布団に寝かせてくれたのでは? とカナリアはお礼と名乗りをする。
しかし彼は『クチナシ』と己の名を口にした以外はほとんど話さず、おまけにフードで自分の髪を隠していて、その美貌に似合わず陰気な雰囲気を纏っていた。
なにひとつ喋らずに過ごす毎日。
とうとう耐えられなくなったカナリアは、彼から渡された便箋を使って食事を運ぶ際にメッセージを送ることにした。
彼へ送るメッセージは短い一言から始まった。やがて手紙の内容は「おかえりなさい」「本日の献立は」と増えていく。
それでも来ない返事に落ち込んでいたカナリアは、ある日彼の部屋で「こちらこそ」と書きかけた便箋を発見する。
――もしかして、この人はただ「無口」で「口下手」で「不器用」なだけなのかもしれない。
不器用な優しさと、溺愛。それに気がついたときカナリアは恋に落ちる音を聞いた
◇
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