ヒューマンドラマ 短編

俺が毒蛇に噛まれたのに、婚約者は救急用品をすべて別の男に渡した

熾星 2026/10/12 公開 2026/10/12 14:17 更新

あらすじ

結婚を控えた旅行の三日目、俺は霧谷渓谷で蛇に噛まれた。

 婚約者の朝倉奈緒と、彼女が長年面倒を見ている瀬川拓海。三人でキャンプに来ていた俺たちは、その日、山奥の滝を見に行く予定だった。

 草の生い茂った遊歩道を歩いていると、右ふくらはぎに鋭い痛みが走った。足元から蛇が這い出し、茂みの奥へ消えていく。噛まれたあたりがみるみる腫れ、足首まで痺れ始めた。

「奈緒、マムシかもしれない! 救急車を呼んでくれ!」

 奈緒が振り返ろうとした、そのときだった。少し離れた場所から拓海の悲鳴が上がった。

「奈緒さん! 今、蛇がこっちに来て……怖かった!」

 奈緒は俺の横を通り過ぎ、拓海のもとへ駆け寄った。転んだ拍子に手のひらを擦りむいたらしく、拓海は情けない顔で傷を見せている。奈緒はその場にしゃがみ込み、救急ポーチを開けると、消毒用品とガーゼを取り出した。

 俺は木の幹に手をついた。右脚の痺れが強くなり、立っているだけでもつらかった。

「奈緒、俺も噛まれたんだ。早く病院に行かないと」

 彼女は一度だけ俺を見た。

「まだ立っていられるんでしょ? 先に拓海を連れて戻るね。直樹は体力あるんだから、少しなら大丈夫だよね?」

 返事をする前に、奈緒は救急ポーチを肩に掛け、拓海を支えてキャンプ場のほうへ歩き始めた。

 その背中を見ているうちに、高校時代のことが頭に浮かんだ。

 バスケットボールで手首を骨折したとき、奈緒は泣きながら病院まで駆けつけてくれた。俺の包帯を巻いた腕を抱き締め、何があってもそばにいると言ってくれた。

 二十年以上たった今も、あのときの顔は覚えている。

 奈緒は、一度も振り返らなかった。

 俺は遊歩道の脇に腰を下ろし、119番に電話した。途切れがちな電波の中で現在地と症状を伝え、指示されたとおり、なるべく右脚を動かさずに救助を待つ。

 続いて、秘書の小野寺亮介に位置情報を送った。

「小野寺、霧谷渓谷で蛇に噛まれた。救急には連絡したから、搬送先の確認だけ手伝ってくれ」

 通話を終え、もう一通メッセージを打った。
「それと、朝倉グループとの貸付契約を全部確認してほしい。婚約解消の手続きも進めてくれ」
 送信してから、スマートフォンを膝の上に置いた。
 奈緒と結婚する未来を、俺はずっと疑わずにいた。
 だが、もう彼女を待つ理由はなかった。

ポイント

総合ポイント 416
日間ポイント 0
日間ランクイン [未取得]
最高順位 [未取得]
評価ポイント 39895.7% ブクマ×2 184.3%

日間ポイントは、なろうの18〜19時ごろの集計値です。

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ブクマと評価ポイントの推移

10/25〜10/31(7日間)
ブクマ 9+1(7日間)
10 9 8 7 10/25 10/28 10/31
評価ポイント 398+46(7日間)
400 380 360 10/25 10/28 10/31

日別の値

新しい順・下の段は前日比
日付 ブクマ 評価P
10/31 9 ±0 398 +10
10/30 9 ±0 388 ±0
10/29 9 +1 388 +16
10/28 8 ±0 372 +10
10/27 8 ±0 362 +10
10/26 8 ±0 352 ±0
10/25 8 ±0 352 ±0

「全期間」は直近30日分までを表示します(リアルタイム表示では、これに現在値が加わります)。

総合ランキングの推移

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