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畑野春樹 2026/10/31 公開 2026/10/31 14:17 更新
春江は、土とともに生きてきた。
朝早くから畑に出て、家族のために働く。季節が巡れば田を耕し、苗を植え、稲を刈る。雨の日も、風の日も、暮らしは待ってくれない。
農家の暮らしは、決して楽なものではなかった。
それでも春江は、夫と力を合わせ、三人の息子を育てた。長男は地元の会社へ、次男は東京の大手自動車メーカーへ、三男はトラックの運転手へ。それぞれが自分の人生を歩み始め、やがて家を離れていく。
なかでも、東京で働く次男は春江の自慢だった。
息子たちの成長を喜ぶ一方で、春江の日常は少しずつ変わっていく。かつて当たり前だった農作業も、年を重ねるごとに身体にこたえるようになった。いつしか田んぼに立つ時間も減り、家族のために走り続けた日々は、遠い記憶になろうとしていた。
家族を支えることが、自分の人生そのものだった春江。
彼女は、何を思い、何を諦め、何に喜びを感じながら生きてきたのだろう。
土の匂い。風の音。季節ごとに変わる田畑の景色。
そこには、家族の歴史と、誰にも語られることのなかった一人の女性の人生が刻まれている。
これは、特別な誰かの物語ではない。
家族のために働き、子どもを育て、年を重ねていく。そんな、どこにでもある人生の物語。
そして、母の背中を見つめる息子が、いつか聞いてみたいと願う。
「お母さん、楽しい人生だった?」
その問いの先にあるものを、春江の人生をたどりながら描いていく。
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