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宿院 2026/07/02 公開 2026/07/25 05:01 更新
高校二年の灯里颯太は、実家の定食屋で鍛えた観察眼だけが取り柄の目立たない少年。人の空腹も嘘も読めるが、「自分が誰かに好かれる可能性」だけは最初から勘定に入れない。放課後の事故をきっかけに、颯太の頭には学年一の美少女・氷見坂葉月の感情実況が流れ込むようになる。だが実況には、なぜか主語だけが存在しなかった。
「好き」「尊い」「今日も生きててありがとう」
誰のことかは分からない。颯太は「葉月には別に本命がいる」と誤解し、学校中の男子を観察して相手探しを始める。弁当も、名前呼びの練習も、買い物も、手をつなぎかけた瞬間も——すべて葉月は颯太に向けているのに、颯太は状況証拠を都合よく組み替えて読み違え続ける。
葉月の無表情は演技ではない。中学時代、曖昧な言葉に周囲が勝手な主語をつけ、関係を壊された過去から、彼女は「主語のある感情」を口にすることそのものを怖がっている。颯太の優しさを「全部分かってくれている」と誤解し、依存を深めていく葉月。だが文化祭実行委員長・神代司が彼女を「氷の女王」という役割に固定しようとしたとき、実況は「助けて」と叫んだきり、消える。
答え合わせを失った颯太は、初めて間違えながら観察を重ね、レッテルの奥にいる葉月自身を見つけ出そうとする。そして能力なきまま踏み込んだ文化祭の夜、一度だけ主語入りの実況が戻るが、颯太はそれを聞き逃す。
だから葉月は、自分の言葉で言う。
「好き。灯里くんが」
心は最後まで読めなかった。だから俺は今日も、お前をちゃんと見る。
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