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α次郎 2026/09/25 公開 2026/10/20 19:20 更新
2028年。
南アジアの一角で確認された、原因不明の感染症。
当初、それは世界のどこかで起きている数多くの災厄の一つにすぎなかった。ニュースになり、専門家が語り、各国政府が対応を始めても、多くの人々にとっては依然として遠い土地の出来事だった。
死後運動再活動症候群――PMRS。
感染した人間は死に至り、その身体は再び動き出す。痛みも疲労も恐怖もなく、生きた人間を襲い、咬傷と体液を介して感染を広げていく。
人々は、蘇った死者を古い物語になぞらえて「ゾンビ」と呼んだ。
しかし、日本は一夜にして滅びなかった。
政府は動き、警察は街を守り、自衛隊は命令を受け、医療も行政も社会を維持しようとする。鉄道は走り、店は開き、人々は学校へ行き、仕事へ向かう。
それでも感染は広がり、昨日まで正常に動いていたはずのものが、一つずつ軋み始める。人々が日常を守ろうとするほど、その日常を支えていた仕組みの限界が露わになっていく。
混乱を金に変えようとする青年、ありふれた高校生活を送っていた少女、組織の命令に従って任務に就く自衛官。
そして彼らと同じように、世界中の名も残らない無数の人々が、それぞれの場所で、仕事をし、誰かを待ち、何かを守り、逃げるべきか迷い、それでも明日が来ることを前提に生き続ける。
最初の小さな異変が、やがて人類史の流れを恒久的に、そして不可逆的に歪めることになるとは、まだ誰も知らなかった。
人類史は、この年を境に二つに分かれる。
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