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他力本願寺 2026/08/14 公開 2026/08/15 16:30 更新
侯爵アレクシスは、自分を悪い夫だと思ったことがなかった。
不貞も暴力もない。妻には何不自由ない暮らしを与え、その能力を信頼し、侯爵家のことを安心して任せている。
結婚して七年。
妻エレノアは、誰もが認める完璧な侯爵夫人だった。
だから、ある朝告げられた言葉の意味が分からなかった。
「あと三回です。それで私はあなたから去ります」
あと三回――何が?
エレノアは答えない。
何を数えているのか教えてしまえば、アレクシスはそれだけを避けるようになる。それでは意味がないという。
やがて一回目が数えられ、残りは二回。
感謝が足りなかったのかと思い、「ありがとう」を重ねてみても違う。
ならばと、大勢の客の前で妻の有能さを誇らしく褒めたその夜――。
「あと一回です」
なぜだ。
自分は妻を大切にしてきたはずなのに。
残された一回に怯えながら妻を見つめ直したアレクシスは、ようやく気づいていく。
自分は七年間、エレノアの好きな花も、好きなことも、かつて抱いていた夢さえ知らなかった。
見ていたのは彼女自身ではなく、何でも完璧にこなしてくれる「侯爵夫人」という役割だけだったのではないか――。
そして最後の一回が数えられた時、エレノアが数え続けていたものの正体が明かされる。
妻を失うまで彼女自身を見ることができなかった夫の後悔と、
侯爵夫人という役割を脱ぎ、自分の人生を選び直す妻。
離縁への「あと三回」から始まる、すれ違った夫婦の再出発の物語。
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