ヒューマンドラマ 短編

婚約者は幼馴染に三千万円のドレスと宝石を贈ったのに、私には偽物のブランドバッグだった

熾星 2026/10/30 公開 2026/10/30 10:39 更新

あらすじ

 十五夜の晩、榛ヶ丘市にある鳴海家の屋敷では、親戚を招いて食事会が開かれていた。

 縁側にはすすきと月見団子が飾られていたが、あいにく外は雨だった。庭に面した広間には季節の料理が並び、食事が進んだ頃、婚約者の鳴海修吾と幼い頃から親しい早乙女莉央が、余興を始めようと言い出した。

 莉央はバッグから四枚のカードを取り出し、楽しそうに読み上げた。

「榛ヶ丘の出身じゃない。大学はごく普通のところ。実家にお金もなければ、頼れる親戚もいない。おまけに両親はもう亡くなってる。さて、誰でしょう?」

 食卓が一瞬静かになり、親戚たちの視線が私に集まった。

 修吾の甥の陽斗が、勢いよく手を挙げた。

「わかった! 澄花お姉ちゃんだ! おばあちゃんが言ってたもん!」

 修吾の母親、鳴海佳代は陽斗の頭を撫で、よく覚えていたわね、と笑った。周囲からも笑い声が上がる。

 私の名前は宮原澄花。

 十七歳のとき、両親は誘拐された修吾を助けようとして、使われなくなった倉庫で命を落とした。

 修吾は、そのとき何があったのかを誰よりもよく知っている。

 けれど今、彼は莉央のためにカニの身をほぐしていた。細かな殻を丁寧に取り除き、彼女の小皿に載せている。

「修吾まで笑うの?」

 彼は顔を上げ、わずかに眉を寄せた。

「何が? 莉央はちょっと冗談を言っただけだろ。嘘を書いたわけでもないし。家柄も学歴も莉央のほうが上なのは、お前だってわかってるだろ」

 莉央が修吾の袖をそっと引いた。

「修吾、そんな言い方しないで。澄花がかわいそうよ。私はちょっと場を盛り上げたかっただけなんだから」

 そう言いながら、彼女は笑ってカードをしまった。

 そのあとは佳代と莉央が地元の知人や昔の出来事について話し始めた。私の知らない名前が次々と出てきて、会話に入る隙はなかった。ときおり、学歴や育ちについての言葉だけが耳に入った。

 スマートフォンが震えたのは、そのときだった。

 大学の先輩、久我律からLINEが届いていた。

「澄花、いつまであの事務所にいるつもり? 冬篠の席はまだ空けてある。本当にこっちへ来ないのか?」

 私は顔を上げた。

 修吾はおしぼりを手に、莉央の口元についたソースを拭ってやっていた。

 画面に目を戻し、律に返事を送った。

「今月で辞めます。来月、そちらに行きます」

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