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桜木ひより 2026/10/19 公開 2026/10/19 18:10 更新
「私が妃に迎えるのは、民を癒やす慈悲の聖女。仮面の聖女、ロザリンドだ!」
春の夜会。満座の前で婚約破棄を告げられた公爵令嬢イリスは、静かに一礼した。
昼の王宮では、賄賂を押し返し、水増しされた陳情を冷ややかに突き返す「王宮でいちばん嫌われている女」。
けれどイリスには、誰にも言えないもう一つの顔がある。夜ごと白い仮面をつけて貧民街へ通い、教会が寄進と引き換えにしか施さない治癒を、ただで施す「仮面の聖女」。それが彼女だ。
婚約者の王太子フェリクスは、公務をイリスに押しつけて狩りに興じ、民の人気欲しさに「仮面の聖女こそ王妃の器だ」と言い出す男。
そこへ名乗り出たのが、切り傷を塞ぐ程度の白い光しか持たない伯爵令嬢ロザリンド。「わたくしが、噂の仮面の聖女でございます」。
許しのない私が名乗れば、異端。
許しのある彼女が名乗れば、美談。
本物が名乗れば、家ごと破滅する。
だからイリスは黙って、婚約破棄を受け入れた。
目の前で、小さな給仕が血を流して倒れるまでは。
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