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たなたなか 2026/10/30 公開 2026/10/31 23:13 更新
灰色の雨が、王都の尖塔を打ち付けていた。
「――時間だ」
鉄格子の向こうで、無機質な鉄靴の足音が響く。
ここは王国の管理する塔――通称『聖域の監獄』。かつて魔王を討ち果たし、世界を救った英雄たちが、その栄光の余生の代わりに「収容され、やがて死を迎える」ための場所だった。
病死、暗殺、事故、反逆者による処刑。
公式の歴史書が記す死因は、代わる代わる異なる。だが、結末だけは常に同じだった。
英雄は必ずこの塔の最奥で死ぬ。そして、例外なくこう遺すのだ。
——『魔王は、まだ死んでいない』と。
処刑台へと連行される男の名は、レイン・アシュクロフト。
元・王国近衛騎士であり、かつて「王国を救った英雄」の首を自らの手で刎ねた男――世間からは『勇者殺しの囚人』と呼ばれている。
男は罪を否定しなかった。弁明もせず、命乞いもしなかった。
ただ、自らの剣の腕以外に、名誉にも出世にも、そして生きることそのものにも興味がないといった冷めた眼差しを湛えたまま、処刑前夜の地下牢に座り込んでいた。
「……お前が殺した勇者は、最後に何を見たの?」
薄闇の中から、鈴を転がすような、しかし感情の温度を一切感じさせない少女の声が降ってきたのは、その時だった。
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