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カルラ 2026/05/18 公開 2026/05/18 21:40 更新
卒業記念舞踏会の夜。
王太子レオニス殿下は、会場中に響き渡る声で高らかに宣言した。
「セシリア! お前との婚約を破棄する!」
男爵令嬢に熱を上げ、私が彼女をいじめていたと言い放って。
百九十三人の貴族が見守る中での、公開処刑のような宣言だった。
——ええ、承知いたしました。
でも殿下、ひとつよろしいですか。
私、三年前から保険に入っているんです。
侯爵令嬢セシリア・アークライトは、特別な魔法も天才的な頭脳も持たない、ごく普通の令嬢だ。
ただ、極度の心配性で——契約・法律・保険制度に、異様なまでに詳しかった。
この貴族社会で生きていれば、婚約破棄など珍しくもない。
だから三年前、大商会が始めた新事業に迷わず加入した。
貴族向け破談保険。フルプランで、最上位等級で。
婚約破棄保険、名誉毀損保険、冤罪訴訟保険、国外追放保険、精神的苦痛補償特約——全部込みで。
婚約破棄宣言の数分後、会場の扉が開く。
黒スーツの査定員集団が整然と入場し、査定が始まった。
「公開名誉毀損——認定」
「虚偽告発疑惑——認定に格上げ」
「"王家都合による一方的かつ公開形式での婚約破棄"——最大補償プラン、適用です」
泣かない。怒鳴らない。
ただ淡々と、書類を出すだけ。
それだけで、王国予算級の賠償請求が王家に叩きつけられた。
「撤回する……! 婚約破棄はなしだ!」
「殿下、百九十三名の証人がいらっしゃいます。撤回の余地はございません」
王家が、青ざめる。
これは復讐じゃない。
事故に備えていただけだ——万が一がありますので。
その後、保険会社の敏腕幹部・アルヴィンに顧問として招かれたセシリアは、次々と新商品を大ヒットさせていく。
そして彼が静かに告げた言葉は、保険の申請書ではなく、少し赤くなった耳とともに差し出された。
「次は……人生設計も、ご一緒しませんか」
心配性令嬢と、冷静な仕事人。
備えていなかった未来だけが、保険適用外だった。
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