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辻 秀之 2026/10/30 公開 2026/10/30 19:00 更新
北のベルク王国は炉の技師を、南のカンパーニュ王国は農学者を賢者として召喚し、大きく国を富ませた。出遅れた小国アルデンが国庫を傾けて呼び出したのは、市役所総務課法規係の係長、真壁恭介だった。
火薬の配合も、鉄の作り方も知らない。「条例の文言の審査ならできます」と答えた彼は、外れ賢者として辺境ハルデン領の代官所へ送られる。
そこで待っていたのは、木炭の値上がりに揺れる森の村だった。領主は山の木を炭に焼いて売りたい。村人は、木は自分たちが「もって」きたと言う。だがその「もつ」という言葉は、法を記す古語のどこにもぴったりあう訳がなかった。召喚の術が真壁にくれたのは、古語と都の言葉の理解だけ。村の言葉は、一語もわからない。
真壁は若い書記ユストと、饒舌な古老ドルフを頼りに、百年ぶんの羊皮紙を掘り、森を歩き、寄り合いを開く。
法も証文も、読める者だけのものだった国で。チートの代わりに起案と根回しと読み聞かせの記録を手に、元公務員が村の言葉で取り決めを書いていく。
古語に封じられた知恵を、読めない人々の手に渡すための、ささやかで頑固な異世界内政譚。
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