宇宙 完結・全75話

天目の残響 ~狐火と耀盌の修羅譚~

燃えてる猫 2026/08/05 公開 2026/09/07 17:04 更新

あらすじ

歴史に名を残さなかった二人の少女。彼女たちは、異なる時代に同じ“眼”を開いた。

――応永年間、京。

陰陽師・賀茂定棟の妹、賀茂静は、女であることを理由に陰陽寮へ入れず、兄の屋敷で暦を書き写す日々を送っていた。

ある日、御所から一匹の白狐が逃げ出す。

それを境に、昨日とは内容の違う公文書、月明かりと逆向きに伸びる影、存在していたはずの人間を誰も思い出せなくなる怪異が、都を静かに侵食していく。

事件はやがて、陰陽師が狐を使って帝を呪ったという「狐使役呪詛」として処理されようとする。だが静には見えていた。

狐は誰かを呪っているのではない。もっと恐ろしい何かから逃げているのだ。

幼い頃にもらった赤い紐の腕輪と、そこに結ばれた小さな珠。価値のない飾りにしか見えなかったそれは、静に“この世界から外れた道”を見せ始める。

そして時は流れ、昭和十九年。

戦争の終わりが見えない日本で、水城律は出口王仁三郎のもとに身を寄せていた。

律が持つ古い耀盌の水面には、ときおり、まだ起きていない出来事が映る。

しかし、それは未来を言い当てる予言ではない。

空襲を逃れる町。別の場所で炎に包まれる人々。助けた一人が原因となって、さらに多くの命が失われる可能性。

見えるのは、選ばれなかった未来の断片だけ。

軍も、役人も、信奉者たちも、その力を自分たちのために利用しようとする。一方、律の周囲では、記録の改竄、存在しない命令書、他人の顔をした追跡者が現れ始める。

静が遺した狐火。律が覗く耀盌。二人を導く、欠けた珠の残響。

未来を見る力があるのなら、人は悲劇を防げるのか。それとも、未来を変えようとする行為こそが、新たな悲劇を生むのか。

五百年の時を隔てた二人の選択が、まだ生まれていない一人の少年へとつながっていく。

これは英雄として記録されなかった者たちが、奪われた因果に抗った物語。

そして、長い輪廻の始まりを告げる修羅の記録である。

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