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年商1億 2026/11/08 公開 2026/11/08 12:30 更新
「陰気で、笑わず、絵の具臭い女を、王子妃にはできない」
春の夜会で、宮廷画家の娘イルゼは婚約を破棄された。
「承知いたしました。では、お預かりしていた二百十二個を、すべてお返しいたします」
この国の貴族は、老いも罪も後ろめたさも、グラウベルク家の画家が描く肖像画に預けて、美しく生きている。
預かった影は、預かり役の指に、灰色の染みとなって溜まっていく。グラウベルク家の画家は、誰も三十五を越えずに死ぬ。
縁が切れたので、預かっていたものを返しただけ。
翌朝、王子の髪は白くなり、宮廷は青ざめた。
けれど返すほどに、イルゼは知っていく。引き取り手のいない死者の絵。灰の降る東の町。預かり役の家が生まれた本当の理由。そして、建国の日から誰も返していない、一枚の絵。
無口な修復師ノアは、彼女の指先を見て言った。
「その色は、どの顔料にもない」
返すのは、王子の罪から、この国の四百年分の罪まで。
最後に、イルゼは、自分のための絵を描けるのか。
※短編『婚約破棄されたので、お預かりしていた肖像画をすべてお返しします』の連載版です。
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