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けい 2026/11/08 公開 2026/11/08 09:19 更新
12歳の孤児カイは、村人たちがただの雲だと笑う巨大な入道雲の奥に、白銀の鱗を持つ龍が潜むことを知っていた。「ハク」と名付けたその白龍は天候を司る古の精霊で、人間の喧騒を嫌い何百年も雲の中に隠れ住んでいた。
二人の出会いは半年前。禁足地の裏山で崖から落ちたカイを、ハクが偶然救ったのだ。瑠璃色の瞳が交差した瞬間、二人は言葉ではなく「孤独」という感情で通じ合った。以来、カイは地上を捨て、ハクの背に跨って朝焼けには黄金に、夜には銀に輝く美しい雲海を旅するようになった。
穏やかな空の旅が永遠に続くと思われたある夏、地上で異変が起きる。雨が一滴も降らない日照りが続き、大地はひび割れ木々が枯れ果てたのだ。かつて暮らした村の川が干上がり、人々が飢えと渇きに苦しむ姿を眼下に見つけたカイは、ハクに助けを求めた。
しかし古竜には『自然の摂理に干渉しない』掟がある。人間の業が招いた干魃なら、それは彼らが背負うべき罰だ。ハクは悲しげに目を伏せ、再び雲の奥へ隠れようとする。
カイはハクの角を握りしめ、「人間は愚かでも、罪のない動物や草木まで見殺しにするの? 僕を助けたハクは冷たい神様じゃないはずだ!」と涙ながらに訴えた。虐げられた村への恨みよりも、ただ純粋に命を救いたいと願う少年の心に打たれ、ハクは決意の咆哮を上げる。
ハクは全身を青白く発光させて雲を巻き込み、巨大な嵐となって一直線に地上へ降下した。雷鳴と共に舞い降りる白い龍の姿は、絶望の淵にいた人々の目に奇跡のように映った。ハクが乾いた大気を泳ぐたびに大粒の恵みの雨が降り注ぎ、大地は水を吸い込み、枯れた木々は息を吹き返していく。
天を仰ぐ大人たちの中には、龍の背に乗るカイの姿に気づき、歓喜の涙を流して祈りを捧げる者もいた。
大気を潤し終え、力を使い果たして少し透き通ったハクは、「帰ろう、我らの玉座へ」と告げ、再び空へと昇っていく。カイは村人たちに一度だけ手を振り返し、ハクの背に顔をうずめた。
厚い雲を抜けた先は、地上にどれだけ嵐が吹き荒れようとも、澄んだ青空と太陽の光が満ちる静寂の世界だ。雲に潜む龍と背に跨る少年は、今日も誰の目にも触れることなく、気高く美しい白雲の海を泳ぎ続けている。
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