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熾星 2026/07/11 公開 2026/07/11 17:00 更新
私は、夫の不倫現場を押さえようとしていた妻だった。
その夜、池袋北口にある古びたビジネスホテルの一室で、私は夫の久我涼介と、大学時代からの友人だった白石莉奈がベッドの上で毛布にくるまっているのを見た。莉奈がルームサービスと勘違いしてドアを開けた瞬間、私はその隙間から部屋へ踏み込んだ。室内には香水と酒の匂いが混ざって残り、テレビは消えているのに、ベッドサイドの照明だけが妙に眩しかった。
用意していた言葉は、喉の奥で全部つかえた。
私が口を開くより先に、浴室の鏡から白い手が伸びてきた。赤いワンピースを着た女が、鏡の中から這い出してくる。長い髪は床まで垂れ、顔の半分以上を覆い隠し、伸びた爪がタイルを引っかいて耳障りな音を立てていた。
その冷たい手が私の肩に触れた瞬間、目の前に歪んだ文字が浮かび上がった。
【不憫すぎる妻、終了のお知らせ! このあと女幽霊に憑依されて飛び降り、死後はクズ夫が五千万円の保険金を受け取り、不倫相手と結婚式!】
【涼介が契約したのは高額の傷害保険。受取人は最初が母親、そのあとこっそり莉奈も追加済み!】
【泣いてる場合じゃない、逃げて!】
ベッドの上で顔を歪め、今にも私を殴ろうとしている男を見た瞬間、なぜか悲鳴は出なかった。怖くないわけではない。けれど恐怖より先に、身体の芯が冷えるような怒りがこみ上げてきた。
私は女幽霊の冷たい手首をつかみ、誰もいない空間へ向かって笑った。
「ねえ、赤いお姉さん。取引しない?」
「先に私へ憑いて、あの最低な二人を片づけさせて。終わったら、私の命であなたのノルマを達成していいから」
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