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まりあんぬさま 2025/06/26 公開 2025/07/03 10:11 更新
「――エリスティア・グラン=フィオーレ! 君との婚約は、今この場をもって破棄する!」
声高らかな宣言が、王立アルシェリア魔法学園の大広間に響き渡った。
そこは学園主催の春季舞踏会の真っ只中。煌びやかなシャンデリアの下、貴族の子女たちが凍りついたように沈黙している。
その中心で、金色の髪を持つ王子――レオナルド・アルセレイン殿下は、青ざめた顔をして立っていた。
そしてその前に立つのは、全身を深紅のドレスに包んだ少女、エリスティア・グラン=フィオーレ。
誰もが“悪役令嬢”と噂する、傲慢で高飛車な名門の令嬢だった。
だが。
「……あら。ようやく、ですのね」
エリスは微笑んだ。あまりに静かに、そして晴れやかな微笑みだった。
周囲の者たちは言葉を失う。婚約破棄という屈辱を前にして、取り乱すでも泣き叫ぶでもなく――彼女は、まるで解放されたかのように微笑んでいた。
「私、随分と長い間、殿下の“役”を演じておりましたもの」
「や、役……?」
「ええ。“悪役”という名の、都合のいい飾りを」
その声は、どこか疲れたようでもあり、自由を得た者のようでもあった。
エリスは、ゆっくりとレオナルドに背を向ける。ドレスの裾が揺れ、紅の花が舞うようだった。
「婚約破棄、承知いたしましたわ。……これよりは、私の物語を生きさせていただきます」
その瞬間、沈黙していた会場の扉が音を立てて開いた。
「お嬢様、お迎えに参りました♪」
現れたのは、少女のように愛らしい銀髪の少年――エリス付きの男の娘メイド、フィーネ。
ふんわりとしたスカート姿に紅茶の香りをまとわせて、まるで舞台の幕引き役のように登場する。
「……お嬢、こいつら、全員ブチのめしていいか」
続いて現れたのは、黒い燕尾服に身を包んだ長身の青年、ツンデレ執事ユリウス。
眉間に皺を寄せ、王子を睨みつけながらも、彼の右手はそっとエリスの手袋を取っていた。
「ふふ、やめておきなさい。そんな価値もないもの」
「……ちっ、了解」
そうして、エリスティア・グラン=フィオーレは、悪役令嬢としての幕を下ろした。
けれど、それは終わりではない。
──すべては、ここから始まるのだ。
本当の彼女を愛してくれる者たちとともに。
そして、学園中を巻き込んだ愛と陰謀と溺愛の日々が、今まさに幕を開けようとしていた。
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