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イスコ 2025/06/26 公開 2025/07/08 16:57 更新
その女の名はレイナ・ヴァルティス。
剣の道を極めし者。かつて百人の騎士を一人で退け、「蒼の死神」と呼ばれ恐れられた。
だが、村の子どもが彼女を見上げる時、憧れではなく怯えの眼差しを向ける。
商人たちは目を逸らし、旅人は彼女を男と間違える。化粧もせず、髪は短く、所作は荒く。
誰もレイナを「女」とは見ない。
そんな彼女の元に、一人の男が訪れた。
「……剣を、教えてほしいんです」
男の名はユリウス。細身で、力もなさそうで、どこか頼りない。
だが目だけは真っ直ぐで、嘘のない光を宿していた。
「お前が? 剣を?」
「はい。僕にも……守りたいものが、あるんです」
仕方なく、レイナは教えることにした。半日で逃げ出すと踏んでいたからだ。
だが──
「ユリウス、飯はまだか」
「もう少しです。今日は山菜のスープと、干し肉の赤ワイン煮ですよ」
彼は料理が……いや、家事すべてが異常に上手かった。
特に料理は絶品。口に入れた瞬間、レイナの眉間がゆるみ、思わずため息が漏れるほど。
いつしか彼女は、剣を教える代わりに料理を教わるようになった。
剣術指南の合間に、台所で包丁を握る二人。
刀の柄よりも軽やかに、レイナは鍋をかき混ぜる。
「……なんで、私がこんなこと……」
「へへ、でも似合ってますよ。エプロン姿、かっこいいです」
その言葉に、レイナは頬を赤らめた。
誰も自分を「女」として見てこなかった。
だがこの男は──恐れず、侮らず、ただまっすぐに自分を見ていた。
──こうして、「最強の女剣士」と「最弱の料理人」は、ゆっくりと心を寄せ合っていく。
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