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桜木ひより 2026/10/30 公開 2026/10/30 18:14 更新
「母上が寂しがるから、今日は行けない」
王太子アルベルトは、婚約者との約束の日になると、決まってそう書いた手紙をよこす。茶会も、夜会のエスコートも、誕生日も。
婚約者の侯爵令嬢クラリスは、思ったことが全部口に出てしまう、よくしゃべる娘だ。三十四通目の手紙に向かってひとしきり文句を言ったあと、彼女は決めた。
「でしたら、わたくしが王妃様をお慰めいたしますわ!」
焼き菓子の籠を抱えて訪ねた王妃の私室で、厳しく近寄りがたいと評判の王妃マルガレーテは、静かに言った。
「あの子は、今日も来ていないわ……いいえ、もう半年も、あの子とは二人きりで顔を合わせていないわ」
殿下の本当の行き先は、王太子妃の座を狙う男爵令嬢ベティーナのもとだった。
母の名前を言い訳にしてきた息子と、言い訳に使われてきた寂しい王妃。毎週花を届けにくる穏やかな第二王子ルートヴィヒ。
クラリスは今日も、殿下が来なかった日に、王妃とお茶を飲む。
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