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九葉(くずは) 2026/02/08 公開 2026/02/19 17:59 更新
半年間ずっと記録をつけていた。
体温と食事量と夜泣きの回数。四歳の義息子の体に何が起きているのか知りたくて、前世で小児科の看護師だった手が勝手にペンを握る。でも公爵家の誰もそのノートを見ようとしない。侍医の薬が合っていないと訴えても継母風情が口を出すなと退けられる。
ある朝、義母に言われた。あの子の養育は私が引き受けます。あなたはもう関わらなくて結構。
その夜、書面を一枚書き上げて封蝋を押した。義息子を毛布ごと抱き上げて裏口を出た。
向かった先は帝国の北の果て。誰も来ない廃れた温泉村。そこで気づく。この村の湯にはかすかに魔力が混じっている。前世の看護の知識と温泉を組み合わせれば、薬では治せなかったものが治せるかもしれない。
口うるさい村長と咳の止まらない女の子と少しずつ増える湯治の客。ノートに記録を重ねるたびに村が変わっていく。
けれど追手は来る。義母は手続きで押してくる。この子を守り抜くには法と証拠で戦うしかない。
そして三ヶ月不在だった夫が村に現れる。冷血公爵と噂されるその人は、息子に手を伸ばしかけて途中で止めた。
あの人が何を考えているのか分からない。ただ一つだけ確かなことがある。
この子の手を離すつもりはない。
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