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八咫烏葵 2026/11/07 公開 2026/11/07 20:50 更新
「石工の娘だったことは、式のあいだだけでも忘れていなさい」
伯母にそう言われ、婚約者には「石の話は退屈だよ」と笑われてきた。
ロゼットの父は、王都の石工の親方だった。「石は、落ちる前に、必ず一度、教えてくれる」――父の口ぐせを、彼女は伯爵家の遠縁になってからも忘れられずにいる。
新しい王さまの戴冠式。百年ぶりに鐘楼の十二の鐘が鳴り響いたとき、彼女だけが聞いた。
頭の上で、石と石がこすれる、乾いた音。
天井の要の石の継ぎ目から、白い粉がさらさらと降ってくる。
式の最後に、鐘はもう一度鳴らされる。
「石の話はやめろと言っただろう。父上の前で恥をかかせるな」
湿った手で彼女の手を握りしめる婚約者。金の杖を掲げようとする大司教さま。
間違っていたら、伯母は社交界に顔を出せなくなる。
千人の前で立ち上がった彼女の隣に、「石と結婚した男」と呼ばれる王宮建築長が並んだ。
十年前、父の現場で、彼女が縄一本で足場から引き戻した見習いだった。
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