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九葉(くずは) 2026/05/11 公開 2026/05/11 12:08 更新
十年間、誰かのために使い続けた手だった。
その手を「偽物」と呼ばれた朝、クラーラは泣かなかった。
代わりにメモ帳を取り出して、荷造りリストを書き始めた。
聖女として神殿に尽くした十年。
けれど「本物の聖女」を名乗る義妹が現れた日、すべてが終わる。
治癒の鑑定すら許されないまま、クラーラは神殿を追われた。
行く当てもなく辿り着いたのは、辺境の騎士団。
寡黙な副団長は「神殿崩れは役に立たない」と言い放つ。
それでもクラーラは、傷だらけの騎士たちの前に立った。
祈りではなく、手袋をはめ、傷口を診て、止血してから癒す。
母から受け継いだその手順が、クラーラの治癒のすべてだった。
神聖さではなく、専門性で命を救う治癒師は、この騎士団にはいなかった。
やがて騎士団の空気が少しずつ変わり始める。
けれど王都から届く影は、クラーラを静かに追い詰めていく。
そして副団長は、何も言わずに毛布を置いていく。
義妹の治癒はなぜ効かなくなったのか。
母が本当に遺したものは何だったのか。
偽物と呼ばれた手が誰かを救うたび、真実は少しずつ形を変えていく。
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