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ほっこくのくわずいも 2020/07/14 公開 2022/02/20 12:18 更新
平日の朝食を終えて、仕事用の服に着替えようとクローク部屋に入っていると、慌てたように妻が呼びかけてくる。見ると、ずっとテレビ画面に見入ったままだ。送還後の空港のロビーで、警察に連行されていく映像だ。男女混在の5人の中にその人物を見つけ、自分でも確認するように指さしながら私に押し示す。「ほらっ、ほらっ、この黄色いキャップの男の人、あの人に間違いないよ。保護猫の猫カフェで説明してくれたひとだよふーん、|篠田優希《しのだゆうき》って名前だったんだ」
「わたしたち夫婦にとって、ユウナがわが子であることは何ら変わらない。そのことだけは揺るがない真実です」養親のアメリカ人夫婦は、インタビュアーに対してそのことだけを淡々と繰り返していた。アシスタントの女性アナウンサーは放送事故と思われないよう、あの事件のとき3歳だったユウナちゃんは成長して5歳になっています。日本語も日本人であったことも知らずに、現在のご両親の愛情に包まれ幸せに過ごしていたそうです、と手元のメモを読みあげた。
シルバーヘアーのコメンテーターが「今回のことの不可思議さ、奇妙さは兎も角も、まずは良かった。虐待されて死んでしまったと皆んなが思っていたあの3歳の女の子が生きていて、幸せに暮らしていたんだから」といった。
三歳のときのその女の子の写真がアップになる。ただただ「愛おしい」しか浮かんでこないその幼い顔をみつめていると、事件のやるせなさ切なさがフラッシュバックされる。あのとき、なんでこんな非情さが本当の現実として目の前に現れてこなければならないのかと、誰もが沈痛な想いにとらわれた。殺されたものが無垢であればあるほど、やり場のない気持ちはどこか別の場所におけずに自分の処へ戻ってくる。
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