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もしものべりすと 2026/07/17 公開 2026/07/17 22:33 更新
「火は、斬れない。逃がすんだ」
火災現場で一人の逃げ遅れを救えなかった消防士・桧山恭介(ひやま きょうすけ)。悔いを抱えたまま炎に呑まれた彼が目を覚ましたのは、灰色に焦げた空の下だった。
この世界には、すべてを焼き尽くす〈灰禍(かいか)〉がある。「焼かれるべき者は焼かれて当然」という教えのもと、人に許されているのは逃げることだけ。灰禍を統べる〈灰王〉は水を奪い、心を乾かし、弱き者を選別して世界を焼こうとしていた。
異世界で桧山が得た力は、ただひとつ——水の在りかを視る力だった。前世では誰にも見向きされなかった「水利調査」の地味な技が、この世界で意味を持ちはじめる。
彼は井戸を数え、封じられた水を開け、燃える町の逃げ遅れを掬っていく。〈焼け残り〉と蔑まれた少女ネル。逃がすことしかできないと嘆く老いた火番ガラン。一杯の水を手渡すたび、掬い方は人から人へ広がっていく。火より、速く。
だが大陸のいちばん奥で世界を焼く〈灰王〉は、桧山と同じ傷を負い、正反対の答えにたどり着いた男だった。
一人で背負い、燃え尽きようとした男がたどり着いた答え。それは斬ることでも、逃げることでもなかった。
全24章・約6万6千字。手から手へ、こぼした分は次の手が拾う。掬うことで世界を変える、一杯の水の物語。
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