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花守かおるこ 2026/05/18 公開 2026/05/19 01:07 更新
静かな帳簿に、
今日も赤い数字が滲んでいる。
剣を振るう者は英雄と呼ばれ、
血を流す者は称えられる。
だが、
誰も数えなかった。
帰らなかった新人の数を。
補償金の消えた遺族を。
削られた鉄の重さを。
誰かの懐へ消えた命の値段を。
迷宮都市オウラム。
そこは夢を喰う街。
富は上へ、
死は下へ。
笑う貴族の指先で、
今日も帳簿の数字が書き換わる。
――そのはずだった。
黒衣の男が来るまでは。
死んだ魚のような目。
疲れ切った背中。
剣も持たず、
魔法も使えず、
ただ一冊の帳簿を抱えた男。
カイル・クロムウェル。
彼は怒鳴らない。
裁きを叫ばない。
正義を語らない。
ただ静かに、
算盤を弾く。
ひとつ。
ふたつ。
みっつ。
積み上がる不正。
繋がる因果。
暴かれる嘘。
そして男は告げる。
> 「差額が合いませんね」
その瞬間、
積み上げた権力は崩れ始める。
凍る魔力。
止まる資金。
砕ける虚栄。
誰より冷たく、
誰より公平に。
感情ではなく、
計算で世界を裁く。
夜。
裏路地の小さな食堂。
湯気の立つ魔汁煮込み。
黒パン。
少し酸っぱい酢漬け。
銅貨三枚。
それでも温かい食事。
それを前にした時だけ、
男は少しだけ人間に戻る。
この街は腐っている。
だが、
腐敗にも終わりは来る。
なぜなら。
嘘はいつか、
数字に負けるからだ。
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