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銀城 2026/02/15 公開 2026/03/31 21:33 更新
世界に、一枚の碑がある。それは、大地震によって生じた深い谷の底、人の手など本来届くはずもなかった太古の地層から出土した。
石ではない。金属でもない。既知のいかなる物質にも属さないそれは、あらゆる技術をもってしても削れず、砕けず、傷ひとつ刻むことさえ許さなかった。
人はそれを恐れた。それでも解読は進められた。
長い歳月を費やした末、碑面に刻まれていた文字はようやく読み解かれる。だが、そこに記されていたものは、警句でも予言でもなかった。世界を導く知でも、繁栄を約する啓示でもない。
それは、すでに滅び去った何者かが、後の時代へ向けて残した最後の言葉――いや、懺悔にも似た遺言であった。
"――我々は、我々の遺産を後世に残すことを是としなかった。だが、もはやこれを消滅させるための力は失われていた。ゆえに封ずる。永く解かれぬことを望む。これを、我々の最後の贖罪とする――"
その文言の真意を、当時の誰ひとりとして量ることはできなかった。“遺産” とは何か。なぜ、それは継がれるべき栄光ではなく、断たれるべきものとして語られていたのか。封印とは何を意味し、彼らは何をそこまで恐れていたのか。自らの遺したものに対してなお、“贖罪” という言葉を用いねばならなかった理由とは何だったのか。
答えはどこにもなかった。
やがて人々は、その碑を解き明かされない古代の遺物として受け入れていった。恐れは薄れ、関心は移ろい、ついには多くの者が、それを過ぎ去った時代の不可解な遺物として扱うようになる。
そして、誰もがその沈黙に慣れはじめたころ、この世界には “異界の者” が現れるようになった。
最初は百年に一人。次に十年に一人。今では、まるでどこかが壊れたように、各地へ降り落ちてくる。
これは、異界より来たりし者たちが、この世界へもたらす災厄と救済の物語である。
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