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旭月 2026/11/07 公開 2026/11/08 00:06 更新
「あと六時間だ」
恋人の実家へ昼食に招かれたベンは、皿を持ったまま固まった。
時刻は、もうすぐ正午。テキサスの庭では、巨大なスモーカーから細い煙が上がっている。
その前に立つのは、テンガロンハットにサングラス、貫禄たっぷりの親父。
黒いエプロンには、堂々と「KISS THE COOK」の文字。
「肉が決める。俺たちじゃない」
北部育ちの大学生ベンには、分からないことばかりだった。
ハンバーガーを焼くのも、BBQではないのか。
どうして薪の切り口を見せられているのか。
そして、冷えた瓶ビールを受け取った今、何時になれば帰れるのか。
恋人エマは、そんな二人を見て笑っている。
母親のマーガレットは、長くなりそうな話の合間にサンドイッチを運んでくる。
ようやく肉が皿に載る頃には、庭に明かりが点いていた。
「こんな柔らかい肉、食べたことないです」
親父は何も言わず、次の一切れを少し厚く切った。
薪を運び、火を眺め、誰かと同じ肉の焼き上がりを待つ。
いつしかベンは、この家の裏門の開け方まで覚えていく。
けれど、庭にいる全員が、いつも同じものを見ているわけではない。
楽しそうに話す二人の隣で、言いそびれたこともあった。
台所では、食卓を整える人にも、その人自身の一日が続いていた。
テキサスの庭と、一切れのブリスケット。
少し不器用な人たちが囲む、可笑しくて温かな食卓の物語。
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