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カキヌマ コウイチ 2024/08/14 公開 2024/08/14 03:00 更新
都内のとある駅前に、どこにでもありそうな茶色のタイルで覆われた、古ぼけた雑居ビルがあった。
そのビルの地下一階は閉店している店の方が多い、いわゆる寂れた飲み屋街である。その飲み屋街のさらに奥へ進むと、ダンボールや清掃用具などが無造作に置かれた袋小路に突き当たる。
その袋小路の左手の壁に、夜の間だけ、さらに地下へ続く階段が現れる。それが、どういうトリックなのかはわからない。
とにかく、昼間は薄汚れた白い壁があるだけの場所が、夜の間だけその壁が消えて、階段が現れるのだった。
もちろん、そのビルには、本来地下二階など存在しない。しかし、確かに階段は存在し、薄暗いその階段を下りると、弱弱しく光る腰ぐらいの四角い電光看板が現れる。
その看板には【異世界案内所】と書かれていた。上の方に、手書きで「ミザリアの」と書き加えられている。怪しい緑色の煙も漂っているが、不思議と嫌な香りではない。
その看板のさらに先に進むには、天井から吊られた黒に近い紫色の布をくぐらなくてはならない。その布は光沢があり、分厚い高級な緞帳のような布だった。その布をくぐり店内に入ると、漂っている煙の元であるキセルを咥えた、女性の姿が現れる。
先ほどくぐった布と同じ黒に近い紺色のとんがり帽子を被り、マントを羽織ったその姿は、まさに絵に描いたような魔女の姿だった。右手に持っている細長いキセルも、杖のように見える。
肩の辺りには、薄っすらと光る妖精のような生き物が音も立てずに飛んでいる。
「おや、よう来たの。歓迎するぞい。初めての者かのう? 儂はここで、異世界への永住希望者を探している者じゃよ。この場所に辿り着いたという事は、お主にはその資格があるという事じゃ」
老人の様な口調でゆっくりと話すが、その声は可愛らしく、見た目も美しい若い女性だ。
金色に輝く長い髪をかき分け、薄い緑色の煙を吐き出しながら、その魔女は言う。
「さて、まずはお主の名前を聞かせてもらえるかのう?」
その魔女は客人の目を見て言う。
怖いような悲しいような、冷たい微笑みを浮かべて……。
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