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乾為天女 2026/10/30 公開 2026/10/30 06:30 更新
旅の予定に空白があると、落とし穴が待っている気がする。そんな晶は、亡くなった祖母・晶子の手帳に挟まれていた黄ばんだ紙片を手に、山と海の境にある港町・汐見ヶ浦へ向かう。紙片には「帆乃香さんへ。今度こそ、続きを返します」という言葉と、旧公民館の住所が書かれていた。手帳に残る四行の詩は、こう結ばれている。「帰りの切符に余白を残して」。その意味はわからない。けれど、祖母が会いに行きたかった相手に、せめて言葉を届けたい。晶は乗り換えから昼食の時間まで計算し、三枚もの予定表を用意する。
ところが、到着早々にバスの運休が判明。駅で出会った政裕に、地図に載っていない旧道と港の乗合船を教わるものの、出航時刻までの余裕は少ない。予定表にない坂道を急ぐ晶の前に、段ボールの底が抜け、詩や写真を散らしてしまった女性が現れる。見過ごせば予定どおりに進める。手伝えば船を逃すかもしれない。迷った末に足を止めた晶は、いばらに引っかかった古い写真まで拾い上げる。
女性の名は花歩。彼女が運んでいたのは、取り壊しを控えた旧公民館で開かれる、最後の文庫室展示の資料だった。しかも、花歩の亡き母こそ、祖母が便りを届けようとしていた帆乃香だった。二人は船を逃すが、政裕に教わった別の道を進む。潮が引いたときだけ姿を現す石畳を、海の匂いを感じながら一緒に歩くのだ。
たどり着いた文庫室に残っていたのは、晶子と帆乃香が交わした詩、港の思い出、対になる木の実の首飾り。二人は海の向こうへ行く約束をしていたという。けれど、思い描いていた旅は実現しなかった。それでも、彼女たちの旅はそこで終わっていなかった。
行き先に着くことだけが旅なのだろうか。会う予定のなかった人と歩く時間に、どんな意味が生まれるのだろうか。たった七分の乗り遅れから始まった出会いが、晶の予定表と、祖母の手帳に残る余白を少しずつ変えていく。
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