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紙森 灯 2026/08/28 公開 2026/10/30 19:30 更新
「名前を落としました」
王都の片隅にある王立遺失物管理局。
そこで働くセイン・アルケットの固有術〈返却〉は、
落とし物を本来の持ち主へ返すだけの、地味な力だった。
そんな彼のもとへ、ある朝ひとりの少女がやってくる。
彼女がなくしたのは、財布でも鍵でもない。
自分の「名前」だった。
名前だけが空白になった住民証明書。
彼女を知らないという家族。
誰にも見えない「なくなった跡」。
そして少女の首に残された、赤い封蝋。
半信半疑のままセインが少女の名前に〈返却〉を使うと、
見たことのない白い紙が現れる。
そこに記されていたのは、
「返却対象:名称」
「帰属先:世界」
という二つの言葉だった。
少女の名前は、世界のものになっていた。
だが、消えていたのは彼女の名前だけではない。
存在しないはずの記録官。
誰も覚えていない記録。
そしてある日、ひとりの奇妙な男が管理局へ持ち込んだ、
「王都には存在しない道」の標識。
名前。
場所。
記憶。
歴史。
世界から少しずつ、「あったこと」そのものが失われ始めている。
これは、少し変わった返却士と、自分で名前を選んだ少女が、
世界中の“なくしもの”を追う物語。
ただし、落とし物は何でも返せばいいとは限らない。
その名前は。
その記憶は。
その世界は。
本当に、元の持ち主へ返すべきものなのだろうか。
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