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熾星 2026/11/08 公開 2026/11/08 16:00 更新
俺は榊野総合医療センターの精神科閉鎖病棟で、夜勤中心の看護助手をしている。
307号室には、成瀬慎吾という患者がいた。二年前に入院してから、ほとんど毎日のように同じことを言い続けている。
「人を殺した」
「死体はベッドの下にある」
警察も調べた。病院でも何度となく確認した。
だが、ベッドの下にあるのは埃だけだった。
入院当初、成瀬は統合失調症と診断され、強い妄想があると判断されていた。同じ話を二年も聞かされていれば、病棟の職員たちも慣れてしまう。
いつしか「ベッドの下の死体」を本気にする者はいなくなっていた。
あの夜までは。
いつものように307号室へ見回りに入ると、ベッドの上で身体を丸めていた成瀬が、俺を見るなり飛び起きた。
怯えた顔のままベッドを降り、俺の手首をつかむ。
「まだいるんだ! 俺は嘘なんかついてない!」
落ち着かせるため、成瀬の前でしゃがみ込み、垂れていたシーツを持ち上げた。
ベッドの下には何もない。
「ほら。誰もいないだろ」
立ち上がると、成瀬の顔からさっと血の気が引いた。
見ているのは床ではなかった。
俺だった。
そこにいるはずのないものでも見たように、全身を震わせている。
「そんなはずない……」
掠れた声が漏れた。
「だって、お前がそこに寝てるじゃないか」
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