ヒューマンドラマ 短編

妊娠三か月。エコーには何も映らないのに、お腹の中では確かに何かが動いている

熾星 2026/11/07 公開 2026/11/07 16:00 更新

あらすじ

 妊娠12週を迎えた日、夫の神代慧吾と一緒に、汐見市の産婦人科医療センターを訪れた。
 神代家は、私たちの結婚を歓迎していなかった。地方の小さな食堂で育った私と、神代ホールディングスの後継者である慧吾では、釣り合わないと思われていたからだ。
 そんな家の空気が少しだけ変わったのは、私の妊娠が分かってからだった。
 だからその日も、普通の妊婦健診で終わるはずだった。
 担当の片桐医師が、モニターを見たまま動かなくなるまでは。
「神代さん、以前の検査では、妊娠していると診断されたんですよね?」
「……どういうことですか?」
 片桐医師がモニターをこちらへ向けた。
「今の画像では、胎児が確認できません」
 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
 生理は三か月来ていない。吐き気も眠気もあった。妊娠検査薬には何度も二本線が出て、最初の血液検査でも妊娠していると言われた。
 最近では、下腹部の奥が時々ぴくりと動くような感覚まであった。
 12週では、まだ胎動とは言えないのかもしれない。
 それでも私は、赤ちゃんがそこにいると信じていた。
「そんなはずありません」
 お腹を押さえた。
「ちゃんと、ここにいます」
 慧吾が別の機械での再検査を求めた。
 けれど、二度目も何も映らなかった。
 さらに病院が出してきた以前の血液検査では、hCG値までほとんどゼロになっていた。
 私が見た結果とは違う。
 データを替えられたのだと訴えても、証拠はなかった。
 三度目の検査でも結果は同じだった。
 義母は、私が妊娠そのものを偽っていたのではないかと疑い始めた。
 そして、ずっと私を庇っていた慧吾まで、最後には答えられなくなった。
「慧吾。私のこと、信じる?」
 長い沈黙のあと、彼は私の手を離した。
 その日、私は神代家を離れることになった。
 病院を出ると、冷たい雨が降っていた。
 駐車場を抜けたところで、知らない男が後ろから近づいてきた。
 手にはナイフ。
 男は何度も同じ言葉を呟いていた。
「腹……腹を狙えって……」
 刃物が身体に入った瞬間、頭に浮かんだのは一つだけだった。
 私が本当に妊娠していないなら――
 どうして、わざわざお腹を狙わせたの?
 次に目を開けたとき、私はあの日の診察室に戻っていた。

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