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かわいかつひと 2026/05/01 公開 2026/07/07 04:49 更新
2029年、政府はユニバーサルハイインカムを導入した。
全国民に、毎月一定のデジタルマネーが支給される。
働かなくても食べていける。
「生きるために働く」という概念が、静かにゆっくり消えていった。
同じころ、工場から車から企業から、人の姿が消えていった。
ロボットがすべての作業をする。
AIが管理する。配送も、受付も、書類の処理も。
生産コストが激減して、物の値段が下がった。
ブランド品も、高級食材も、誰でも手が届く。
物の価値が下がり、仕事は趣味に変わった。
その代わりに価値が上がったのは——体験だ。
人間にしか作れない「その場限りの瞬間」
再現できない時間。
データに残らない記憶。
それだけが、この世界でいちばん高いものになった。
「病気を治す」という考え方も、時代遅れになった。
風邪も、骨折も、癌も——今は「状態」と呼ぶ。
身体が乱れている状態。
整えればいい。
薬で押さえるより、自分の回復力を引き出す方がいい。
診断はAIが行い、手術はロボットがやる。
医療AIとロボットだけ。
医者、製薬会社、という言葉を知っている若者は少ない。
教科書で読んだことがある、昔あったらしいもの。
そういう扱いだ。
争わなくなった
政府もずいぶん小さくなった。
行政の大半をAIが代替し、法律の草案もAIが作る。
政治家の仕事は、AIが出した答えを「人間として承認するかどうか」
を決めることだけになった。
そして——人間同士も、争わなくなった。
言いたいことは、AIが要約して相手に伝えてくれる。
感情的になりそうな場面では、AIが間に入って調整してくれる。
難しいことはAIにすべてお任せ。
世界は、静かになった。
そんな世界に生きていたレンのお話。
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