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熾星 2026/10/09 公開 2026/10/09 12:18 更新
俺の仕事は、事故物件に泊まることだ。
幽霊を祓うわけでも、霊感があるわけでもない。不動産会社や投資家から依頼を受け、数日間そこで暮らし、夜間の騒音や臭い、設備の状態を確認して報告書を出す。
今回の依頼主は蒼栄不動産だった。報酬は10万円。場所は海凪県(みなぎけん)霧浜市(きりはまし)にあるマンションの一室で、少し前に人が死んだばかりだという。
担当の坂口剛から聞かされた話では、前の住人は主寝室で首を吊ったらしい。3か月ほど空室になっていたが、購入を検討している客が現れ、契約前に実際の居住状況を確かめたいと言い出したそうだ。
3晩泊まったが、何も起きなかった。
4日目の朝。荷物をまとめようとして、ベッドの下に1枚だけ色の違う床材があることに気づいた。
バールを差し込み、板を持ち上げる。
下から出てきたのは、黒い表紙の日記帳だった。
最後のページだけ、文字がひどく乱れている。
「この調査員は人間じゃない! 毎晩、俺のベッドのそばに立って、寝ているところを見ている!」
日付は10月14日。
俺が1404号室へ入った日だった。
最後の感嘆符を指でなぞると、指先が黒く染まった。
インクが乾いていない。
そのとき、玄関の鍵が回った。
坂口が書類の束を抱えて入ってくる。客を相手にするときの、あの愛想のいい笑みを浮かべていた。
「相沢さん、どうでした? 3晩泊まって、別に何もなかったでしょう。前にいた人、精神的にかなり参ってたらしいんですよ。誰かに見られてるとか言って。報告書、できました?」
日記帳をテーブルに置き、坂口の方へ押した。
「坂口さん。あなたが言ってた、ここで首を吊った前の住人」
坂口の目が日記へ落ちる。
「この部屋では死んでないんじゃないですか?」
口元の笑みが止まった。
その時点では、まだ日記の方ばかり気にしていた。
1404号室から、本来あるはずの空間が消えていることには、もう気づいていた。
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