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ペンギンの搾り汁 2026/09/13 公開 2026/09/13 22:01 更新
「十年後、君を自由にする」
没落寸前だった伯爵令嬢リディアを救ったのは、冷酷と噂される公爵アルベルトとの契約結婚だった。
借金を肩代わりしてもらう代わりの結婚。
そう思っていたリディアは、結婚初夜、夫に告げた。
「あなたからは、何も欲しくありません」
アルベルトはただ一言、「わかった」と答えた。
それから十年。
夫はリディアに触れなかった。
愛を囁くこともなければ、誕生日を祝うことさえなかった。
穏やかで、不自由のない生活。
けれど夫婦らしいことは何ひとつない。
――これは、最初から最後まで愛のない“白い結婚”なのだ。
そう思っていた。
十年目の結婚記念日の朝。
アルベルトは署名済みの離縁状を残し、屋敷から姿を消した。
『約束通り、君を自由にする』
たった一行の手紙だけを残して。
夫の書斎を整理していたリディアは、そこで今まで存在すら知らなかった隠し部屋を見つける。
扉を開けた先に並んでいたのは、十個の箱。
――すべて、自分宛てだった。
十八歳。
十九歳。
二十歳。
結婚してから迎えた、十回の誕生日。
欲しかった本。
壊してしまったチェスの駒。
冬の日に見つめていた青いショール。
誰にも話した覚えのない、小さな願いまで。
そのすべてを、夫だけが覚えていた。
けれど。
「……どうして」
これほど自分を見ていた人が。
これほど長く自分を想っていた人が。
どうして、一度も渡してくれなかったのだろう。
最後の箱の中に残されていた一通の手紙から、リディアは十年前の結婚に隠されていた真実を知る。
これは、愛されていないと思っていた妻が、
十年間一度も愛を押しつけなかった夫の純愛を知り、
今度は自分の意思で彼を選び直すまでの物語。
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