ハイファンタジー 短編

勇者になれなかった子を、家まで送るだけだった

える・あーる 2026/10/17 公開 2026/10/17 18:00 更新

あらすじ

「なりたかった」を、なかったことにできるだろうか。

前世の記憶を思い出せば、何かが変わると思っていた。
特別な才能が目覚めて、いつか自分も物語の主役になれるのだと。
けれど十年後、二十八歳のトビンは今日も荷車の縄を締め、配達帳面を開いている。家賃は待ってくれない。荷物も、待ってくれない。
そんな彼が今日、家まで送り届けるのは、勇者養成院の試験に落ちた十二歳の少女だった。

「べつに、勇者になりたかったわけじゃないし」

そう言うノエの腕には、使い込まれた安い練習剣。
上着の内側には、隠しきれていない不合格通知。
いらないと言うには、毎日握りすぎた。どうでもいいと言うには、あの制服を着て帰る日を、思い描きすぎた。
家に近づくたび、母親に伝えるはずの言葉が喉につかえる。

「聞かないで」
そう言ったくせに、しばらくすると「……一回だけ、聞いて」。
強がりで、素直じゃなくて、甘いものにはちょっと弱い。
その練習剣を見るたび、トビンは自分の部屋の棚を思い出す。
そこにも、八年間、開けないままの魔法の入門書がある。
捨てることもできずに置いてある、その一冊が。

夕方までに村へ送り、受領の署名をもらう。それで今日の仕事は終わる。
いつもの道を、いつものように行けばいい。
けれど、この帰り道には、二人がまだ知らない一瞬が待っている。
少女が抱きしめる剣と、大人が閉じたままにした本。
遠く離れた二つが、同じ問いを投げかける日は、もう始まっていた。

うまくいかなかった夢は、どこへ持って帰ればいい?

勇者になれなかった少女と、特別になれなかった荷運び。
ちぐはぐな二人の、たった一日の帰り道。
笑ってしまう強がりの奥に、あなたにも覚えのある願いがきっとある。

家まで送るだけだった。
その「だけ」の先にある景色を、どうか一緒に見届けてください。

ポイント

総合ポイント 830
日間ポイント 20
日間ランクイン 1
最高順位 214
評価ポイント 78694.7% ブクマ×2 445.3%

日間ポイントは、なろうの18〜19時ごろの集計値です。

読者の反応

ブクマ
22
感想
1
レビュー
0
評価者数
93
平均評価
8.45
週間読者
1,859

ブクマと評価ポイントの推移

10/24〜10/30(7日間)
ブクマ 22+8(7日間)
20 15 10/24 10/27 10/30
評価ポイント 786+224(7日間)
700 600 10/24 10/27 10/30

日別の値

新しい順・下の段は前日比
日付 ブクマ 評価P
10/30 22 +1 786 +20
10/29 21 ±0 766 +42
10/28 21 +1 724 +50
10/27 20 +4 674 +32
10/26 16 ±0 642 +62
10/25 16 ±0 580 +6
10/24 16 +2 574 +12

「全期間」は直近30日分までを表示します(リアルタイム表示では、これに現在値が加わります)。

総合ランキングの推移

順位を読み込んでいます…