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C・K・向田 2026/10/26 公開 2026/10/26 23:00 更新
明治二十四年、春。
帝都新聞の社会部記者、渡瀬護は三十三歳。事件を追い、街を歩き、今日も新聞記事を書く。
家に帰れば、身体の弱い母・セツがいて、十九歳の弟・ユズルがいる。朝食の膳を囲み、母の小言を聞き、弟と軽口をたたく。そんな、どこにでもある家族の朝が、護の日常だった。
昨年、父の太白が亡くなった。
父が護に繰り返し言い聞かせたことは、たった三つ。
人を大事にしなさい。
ウソをつくのは、ダメです。
お母さんと、弟を、大事にしなさい。
生前は何度も聞かされた、父の小言。
けれど、新聞記者として事件に向き合うたび、護はその言葉を思い出す。
人の噂を、そのまま記事にしてよいのか。
事件の陰にいる人々の暮らしを、どこまで伝えられるのか。
新聞が求める刺激的な記事と、自分が書くべき真実。その間で、護は考え続ける。
やがて、明治の世を揺るがす大津事件にも、時代の大きなうねりが押し寄せる。
しかし、どんな大事件が起きても、家に帰れば母が待ち、弟がいて、明日の朝もまた、いつもの食卓がある――そう信じていた。
家族の何気ない会話。母の手料理。弟とのささやかな言い争い。そして、もう聞くことのできない父の小言。
失って初めて気づくのではなく、失うとは思いもしない日々の中にこそ、大切なものがある。
明治東京を舞台に、事件記者・渡瀬護が人々の人生と向き合いながら、家族の愛情と、真実を書くことの意味を見つめていく、人情事件録である。
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