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@12 2026/10/09 公開 2026/10/30 12:00 更新
序章 黒鴉の名を継ぐ者
帝政歴323年。
帝国の名誉公爵家、クロウ家の本邸では、一つの重要な儀式が執り行われようとしていた。
広い家族会議室の中央に立つのは、二十三歳の青年、ヴァルター・A・クロウ。
その正面には、第十四代当主アルベルト・A・クロウが座していた。
室内には妻イレーネ、娘エミリア、家族会議の代表者たちが集まっている。
机上に置かれたのは、代々受け継がれてきた家憲と、一通の後継者指名文書だった。
「ヴァルター。お前に尋ねたいことがある」
アルベルトの声は静かだった。
「お前は、なぜ軍人になろうと思った?」
ヴァルターは父の目を見た。
「守るべき人々がいるからです。帝国に生まれた者として、その平穏を守りたいと思いました」
「では、クロウ家の当主となることは、お前にとって何を意味する?」
その問いに、ヴァルターはすぐには答えなかった。
幼い頃から学んできた家門の歴史。栄誉だけではなく、幾度もの争いと犠牲によって刻まれた記録。
そして、権威を自ら返上した先祖たちの決断。
やがて青年は口を開いた。
「家名を守ることではありません。その名に恥じない責任を果たすことです」
アルベルトは静かに頷いた。
やがて指名理由が読み上げられ、ヴァルターの承諾と家族会議による審査を経て、正式な宣誓が行われた。
「私はクロウの名を、権威としてではなく責任として受け継ぐ。守るべき者のために力を振るい、自らの意思によって、この家門の未来を担う」
その日、ヴァルターはクロウ家の正式な家督後継者となった。
しかし、彼自身もまだ知らなかった。
四年後、この家に一人の男児が生まれることを。
そして、その少年が幾度もの戦争と異界の脅威を越え、後世にまで語り継がれる存在となることを。
帝政歴327年11月25日。
レイブン・S・クロウ、誕生。
黒鴉の年代記は、やがて彼の時代へと移りゆく。
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