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歩人 2026/05/01 公開 2026/07/27 21:00 更新
「地味な針仕事しかできない女は要らない」
公爵家嫡男ヴィクトルにそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、裁縫道具だけを抱えて屋敷を出た。
——その翌週、社交界が凍りつく。
王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会ドレスも、第一王女の外交用ローブも。
仕立てた職人が、消えた。
辺境の町ファーデンで小さな仕立て屋を開いたティナの元には、布商人エミルがいた。
「……この縫い目、お前が縫ったのか」
彼だけが、最初から気づいていた。
そして、半年後。
古びた王妃のドレスの裏地から、二重縫いで隠された署名「T.F.」が発見される。
十年間、社交界の華やぎを支え続けたのが誰だったか——王都はようやく気づく。
もう、遅い。
ティナは王都には戻らない。署名も、怒りも、もう消した。
彼女が選ぶのは、辺境の小さな仕立て屋と、布の声を信じてくれる男だけ。
これは、十年裏方で耐え続けた令嬢が、もう一度針を握り直し、自分の名前で生きる物語。
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