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こうた 2026/10/08 公開 2026/10/08 21:21 更新
「やめてよ」
少年・佐伯真司は、何度もそう言った。
始まりは、ただのからかいだった。
おとなしく、怒ることが苦手だった真司につけられたあだ名――「M男」。
しかし、真司が嫌がれば嫌がるほど、クラスメイトは笑った。
「嫌がるから面白い」
「本当は嬉しいんだろ?」
「お前がMだから悪い」
真司が怒れば「ほら、喜んでる」。
泣けば「演技」。
先生に相談すれば「チクった」。
何をしても、真司の言葉は誰にも届かなかった。
やがて「人を怒らせるプロフェッショナル」と呼ばれ、いじめは遊びへと変わっていく。
1988年、高校卒業。
真司は思った。
――これで、終わった。
しかし、終わっていなかった。
就職しても、人の笑い声が怖い。
誰かに嫌われることが怖い。
「嫌だ」と言うことさえ怖い。
同級生たちは結婚し、家庭を築き、普通の人生を歩んでいく。
自分だけが、あの日から取り残された。
そして2020年、50歳。
かつての同級生と再会した真司は、信じられない言葉を聞く。
「まだあの頃のこと気にしてるの?」
「あれ、ただの冗談だったじゃん」
真司は答える。
「……俺は、嫌だって言ったよ」
返ってきた言葉は、
「……そうだっけ?」
だった。
50歳になった真司は、少年時代の日記を見つける。
そこには何度も書かれていた。
「嫌だった」
「やめてほしかった」
「誰か助けて」
そして最後に、真司は初めて自分自身に問いかける。
――僕は、本当に悪かったのか。
これは、一人の少年が「M男」という言葉によって傷つけられ、50年間その傷を抱えて生きた物語。
いじめは、卒業すれば終わるのか。
それとも――。
『M男は辛いよ』
20話で描く、いじめと人生の物語。
最後に問いかけるのは、読者自身です。
誰かが「嫌だ」と言ったとき、あなたは笑わずに、その言葉を聞けますか。
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