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くらたん 2026/11/04 公開 2026/11/04 23:44 更新
「地味な君より、歌姫ナハティガルに魅せられた。婚約は破棄する」
舞踏会の真ん中で、侯爵令息ファビアン様はそう言った。手には今夜の公演の、最前列の券が三枚。
私、ウルリカは笑いをこらえた。だってその歌姫、私なのだもの。
「ええと……では、ご忠告を一つ。明日の公演の最前列は、もう売り切れでございます」
夜。仮面をつけて舞台に立つと、最前列でファビアン様が薔薇を投げていた。
楽屋に届いた恋文には、こう書いてある。
『あなたに比べれば、前の婚約者は石ころでした』
……石ころで、悪かったわね。
翌日も、その翌日も、恋文は届く。私の悪口つきで。薔薇は毎晩、一列ずつ遠くなる。
一方、歌劇場の二階の暗がりに、毎晩同じ席で拍手もせずに聴いている人がいる。
第二王子アウレル殿下。
「仮面をつけていても、あなたの『ええと』は、舞台の最初の一音と同じ高さだ。気づいているのは、たぶん僕だけです」
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