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糸川草一郎 2014/03/09 公開 2014/03/09 03:33 更新
重複投稿。
引っ越し当日、私は父と南側の大きな窓から荷物を運び入れた。初夏ののどかな昼下がりであった。一〇二号室の隣人の中年男性が網戸越しに私を睨みつけていたから、会釈したが、彼はそれに応えず、大きな音を立てて、アルミサッシの窓を閉めた。
父が帰った後で、荷物の整理をしていたら、南のアルミサッシを蹴るような大きな音がした。私が窓を開けると一〇二号室の男だった。咄嗟に私は、
「あ、こんにちは」と言うと、
「こんにちは、じゃねえ。馬鹿野郎」
「あの何か」
「人の車、キズものにしておいて、挨拶もなしか」
「キズものになんかしていませんよ」
「荷物ぶつけたじゃねえか」
「ぶつけていませんよ」
「じゃあこれは何だ」
私は近くに寄って見たが、そこには傷らしきものは何一つ付いていなかった。
「何も付いていませんが」
「馬鹿野郎、俺がさっき磨いただ。今度やりやがったらただじゃおかねえからな」
「……」
それから三日ばかり経って、夕食の後、静かに読書をしていると、一〇二号室から壁を殴ったような物凄い音が聞こえた。隣人が腹を立てているのは判ったが、何に腹を立てているのかは、判らなかった。
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